定常環境下での成長ゆらぎと現象論的規則

定常環境下での成長ゆらぎと現象論的規則

同じ遺伝情報を持つクローン細胞集団を一定の環境に置いたとしても、個々の細胞の様々な形質(表現型)にはばらつきやゆらぎが観察されます。細胞の形質の中でも、特に増殖能に見られるゆらぎは「成長ゆらぎ」と呼ばれています。

我々は、定常環境下での大腸菌のクローン細胞集団内部の成長ゆらぎを高精度で計測・定量する実験をおこない、細胞の世代時間(分裂から次の分裂までの時間)の確率分布に依存して集団の増殖率がどのように変化するか、その関係を明らかにしました。また、クローン細胞集団は、それを構成する内部の細胞の平均増殖率よりも高い増殖率で増殖することを示し、この集団レベルでの増殖率の増分(増殖率ゲイン)が、細胞レベルでの世代時間のばらつきが大きいほど大きくなるという成長ゆらぎの意義を明らかにすることに成功しています。

また、培養環境に依存して大腸菌の増殖率は大きく変化しますが、我々の計測結果では、世代時間のばらつきの大きさ(分散)は平均世代時間によって強い制約を受け、両者は線型に関係することを見いだしています。また分裂酵母を用いた計測では、好培養環境下で起こる突然死の発生率が、成長率に対して線型で増加し、成長率が高い好環境ほどむしろ生存期間が短くなるという、成長率と死亡率のトレードオフが観察されています。このようなシンプルな現象論的ルールは、細胞内の増殖や死の機構を知る上で重要な手掛かりを与えるとともに、大腸菌の成長率の上限/下限など本質的に重要な形質と関係している可能性があり、注目しています。

 

See also:

  1. Nakaoka H, Wakamoto Y (2017) Aging, mortality, and the fast growth trade-off of Schizosaccharomyces pombe. PLOS Biology 15(6): e2001109.
  2. Hashimoto M, et al. (2016) Noise-driven growth rate gain in clonal cellular populations. Proc Natl Acad Sci 113(12):3251–3256.
  3. Wakamoto Y, Grosberg AY, Kussell E (2012) Optimal lineage principle for age-structured populations. Evolution (N Y) 66(1):115–34.