ストレスに対する細胞の表現型適応

ストレスに対する細胞の表現型適応

我々は、クローン細胞集団が過酷なストレス環境に置かれたときに見られる、集団内の生死運命の分岐、適応応答に興味を持って研究を進めています。

例えばバクテリアでは「パーシスタンス(Persistence)」と呼ばれる現象が起こることが知られています。これは、バクテリアのクローン集団に抗生物質などの致死的なストレスを与えると、大多数の細胞が殺される一方で、一部の細胞が長期間生き残り続けるという現象です。この現象で興味深いのは、ストレスに対して生き残る細胞と死ぬ細胞のあいだに遺伝型の差がないという点です。つまり、個々の細胞が持っている(狭義の)遺伝情報としては差がないにも関わらず、一部の細胞がストレス環境下で生き残ることができます。

また、強いストレス環境で生き延びてきた一部の細胞は、そのストレス環境を克服し、安定に増殖できるようになる一種の順応が起こることも分かってきています。つまり生き延びてきた細胞はストレスに対して抵抗性を獲得するわけですが、これも遺伝子変異なしに表現型レベルで達成できることが徐々に明らかになりつつあります。

これらの現象は「細胞集団中の遺伝型的に多様な個体の中の適者が選択されることにより集団の適応度が増加する」という単純な描像では説明できません。我々はこのようなストレス環境下で起こる細胞の状態変化や自然選択の特徴を深く理解し、バクテリアやガン細胞集団の適応原理を明らかにすることを目指しています。

 

See also:

  1. Wakamoto Y, et al. (2013) Dynamic persistence of antibiotic-stressed mycobacteria. Science 339:91–5.